富山県が挑戦を続ける公共交通データの標準化とオープン化
更新日:2022年8月1日
富山県では、コミュニティバスを含む全ての路線バスを網羅したバスロケーションシステムが整備されています。バスロケーションシステムを支える基礎的なデータは、路線バス事業者三社(富山地方鉄道、加越能バス、富山地鉄北斗バス)のほか、コミュニティバスを運営する市町が作成しています。この基礎的データは、国土交通省が定めた「標準的なバス情報フォーマット(慣用的にGTFS-JPと呼ばれることがあり、本稿ではGTFS-JPを使います)」で作成されています。今では、GTFS-JPは全国でも広く整備が進められていますが、富山県の取り組みには大きな特徴があります。富山県では、全てのバス事業者やコミュティバスを運営する市町が自らデータを作成・公開しています。今回のブログでは、富山県が進めてきた公共交通のデータ活用分野での標準化とオープン化の取り組みについて、紹介します。
オープン化前夜の富山県のバス情報
富山県は、バス情報のオープン化に取り組む以前も、公共交通の情報発信に力を入れていました。その中核を担ったのが、「富山らくらく交通ナビ」というWEBサイトでした。「富山らくらく交通ナビ」は、2010年に運用を開始した乗継情報サービスで、富山県内の公共交通機関である、鉄道・バス(コミュニティバス)に特化した、目的地までの経路・乗継を情報提供するWEBサイトでした。

データの標準化・オープン化に舵を切る
2017年当時、富山県ではオープンデータ政策を進めており、県民からのニーズが高く、利用価値の高いオープンデータを作ろうとしていました。そんな折、Code for Takaokaのメンバーから、「富山らくらく交通ナビ」のデータをオープンデータにして欲しいとの要望が出ました。公共交通の情報をどのような形式で公開するのが良いのかを検討する中で、”GTFS-JP”という標準の交通データ交換フォーマットにたどり着きました。
官民あげてのGTFS-JPデータ作成と公開
富山県の情報政策部門・交通政策部門、Code for Toyama City , Code for Nanto, Code for Takaokaが集まり、東京大学生産技術研究所の先生に支えられながらの勉強会が繰り返し行われました。そして、富山県としては、GTFS-JP形式のデータを事業者・自治体が自ら作成し公開することが望ましいとの結論に至りました。
2018年、富山県が呼びかけて、路線バスを運営する自治体・バス事業者が集まり、十数回にわたるGTFS-JP作成研修を行いました。そして、年度末に富山県内の路線バス全てのGTFS-JPデータが作成され、オープン化されました。このGTFS-JPのオープンデータは国内外の乗換案内サービスで活用されるようになり、単独のWEBサイトであった「富山らくらく交通ナビ」はその役割を終えました。
2019年11月、データ作成と合わせて取り組んでいたデータ活用施策である、県内全ての路線バスを網羅したバス位置のリアルタイム配信サービスである「とやまロケーションシステム」が開始されました。「とやまロケーションシステム」には、自治体・バス事業者が作成したGTFS-JPが活用されています。また、「とやまロケーションシステム」の遅延情報や位置情報等の動的情報は、GTFSリアルタイム(GTFS-RT)という標準形式で、オープンデータとして公開され、 「my route」などのMaaSサービスでも活用されています。このように富山県内の自治体・バス事業者が作成するGTFS-JPは、県民生活の利便性向上に大きく貢献しています。

標準データ形式がもたらした業務の標準化とノウハウ共有
GTFS-JPという標準データ形式は、自治体の業務にも変化を起こしました。今まで、各自治体が独自に作成・管理をしていた時刻表、バス停、経路の情報は、GTFS-JPという標準データ形式に準拠したデジタルデータとして統一されるようになりました。そのデータは、決まったソフトウェア(富山県内自治体の場合は、Sujiya Systemの「その筋屋」または「西沢ツール」)を使って管理されるように変化しました。この変化は、以下のメリットをもたらしました。
バス停、運行経路、時刻表がデジタルデータで管理される
デジタルデータを管理するために共通のソフトウェアが導入される
自治体・バス事業者が同じソフトウェアを利用するため、ノウハウを共有できる
組織のノウハウがデジタルデータとして劣化することなく受け継がれ更新される

2022年7月27日(水) 富山県交通戦略企画課が呼びかけ、県内の自治体・バス事業者が集まり、”GTFS-JP作成研修会”が行われました。2018年度に始まった取り組みも5年目となり、参加者も、GTFS-JP作成経験のない新任者が多くなってきました。そんな中、民間のバス事業者、バスロケ開発会社、普段からGTFS-JPを利用している市民団体(Code for )が自治体職員にGTFS-JPの役割や整備する意義を伝え、データの作成・編集の方法などのノウハウを共有しました。このような取り組みは、オープン化されるデータだからこそ、成立することだと思います。
終わりに
富山県が進めてきた公共交通データのオープン化への取り組みは、行政の仕事のやり方も変え始めています。単にデータを作成し公開するだけでなく、標準的なデータ形式を採用することや自分たちの業務でもオープンデータを活用することで、業務の進め方が変わり、組織の枠を超えたコラボレーションが見えてくるのではないでしょうか。
オープンデータに取り組む自治体さんから、よく聞く質問の一つに「どうすればオープンデータを使ってもらえますか?」があります。この質問にはなかなか良い答えを持っていませんでした。これまでは「まずはデータを公開することが大切です」と答えることが多かったと思います。これからは「まずは標準的なデータ形式を自分たちの業務の中で使ってみましょう。そうすると自分たちにとっても、利用者にとっても有益なデータに育っていきます。」と、そう答えようと思います。